In The Woods... "Heart Of The Woods"の和訳 -2nd "OMNIO"

In The Woods...  Omnio (1997)

今回も例によって、私がこのアルバムの虜になるまでの経緯を書きます。興味ない方は、後半の和訳にどうぞ。
1st「HEart Of The Ages」を聴いてすっかりIn The Woods...にハマっていた高校生の頃、Burrnなどの日本の音楽雑誌を見ていても、1996年頃のメロディックデスメタル特集以降、In The Woods...の情報は何も掲載されない。どの記者の興味にも、レコード会社のプロモーションも何も無かったのだろう。日本の媒体から情報を得るのを諦め、我が家に導入されたばかりのダイヤルアップ式のインターネット接続で、海外から情報を探してみることにした。すると、ついにIn The Woods...のサイトを発見した。ただ、スラスラ英語が読めるわけでもなく、必死で断片的に読んでみると、そこには2ndアルバムのリリース予定が書かれていた。しかし、そんな情報は日本の雑誌では見かけなかったので、恐らく今回の国内版は無いのだろうと思った。今ではネットでどんなマイナーな異国のバンドでも、簡単に音源が手に入ってしまうが。当時はまだそんな状況ではなかった。

もう頼りは、御茶ノ水ディスクユニオン-メタル館だけだ。
サイトに書かれた発売日以降に、御茶ノ水に立ち寄り、メタル館のブラックメタルコーナーを探してみる。しかし、見当たらない。試しにレジの店員さんに聞いてみることにした。

僕「あの、ノルウェーのIn The Woods...ていうバンドの2ndアルバムって入荷していないですか?」
店員「えっと… HeavenWoodですか?」
僕「いえ、"In the Woods..."です」
店員「いや、分からないですね…」

すると奥から店長らしき人が出てきた。

店長「In The Woods...ですよね?ヨーロッパではリリースされたみたいですけど、ここにはまだ注文書とか届いてないから、入荷がいつになるかは分からないですね」

おーさすがディスクユニオンの店長!ちゃんと把握してらっしゃる!すげー!と感動しつつも、手に入れられなくてガッカリ。
その後、用もなく通よってチョコチョコ確認。ついにディスクユニオンにも輸入版が入荷され、2ndアルバム「Omnio」を手にいれた。
CD版裏ジャケット

家に帰ってすぐにプレーヤーにかける。
1曲目は「299796km/s」
この数字は光の速度を指している。(現在の精密な測定とは誤差があるようだが)
イントロは、弦楽の哀しげな響きで幕を開ける。(演奏はDust Quartetと記載あり)
続いてバンドが登場し、伴奏と共にギターがイントロのメロディーを奏でる。ゆったりとした、胸を締め付けられるような悲しげな響きだ。
1stと比べ、リバーブの残響は抑えられ音質はクリアにスッキリした印象だが、そのせいか1stの凍てつく森で外に発散されるような激しい悲しさと違い、もっと内側で募る悲しさとというか、自らに問い掛ける内省的な響きになった様に思える。
そして落ち着いた男性のクリーンな歌が始まると、ギターの旋律が絶妙なバランスで絡み合いながら女性ボーカルもハーモニーを奏でる。
この複数のギターの絡みと、混声のハーモニーから今度は一気にトレモロリフパートに入り、加速する。不思議と攻撃的な印象は無く、悲しい気持ちが更に高まっていく様だ。歌も叫ぶこと無く、クリーンなままだ。このアルバムではブラックメタル特有の叫ぶ歌は無くなった。
このパートが終わると再び、弦楽の切ない間奏になる。そしてまたバンドが登場し、今度は徐々に悲しみを乗り越え、希望を掴み取っていく様な雰囲気で展開し、最後は3本のギターと弦楽のハーモニーと絡み合いで、感動的なラストを迎える。

この曲を聴き終えて、自分の目頭が熱くなったのを感じた。音楽を聴いてこんな気持ちなったのは初めての事だ。当時の僕は部活を辞めてしまったり、将来の事や目標を完全に見失っていた時期だった。何の為に生きているのか?そんな日々を送りつつ、楽しみは好きな音楽を聴くこと、ギターを弾くことだった。
そんな悩む自分の気持ちに共鳴したのかもしれない。

また音楽的にこの2ndアルバムOmnioはブラックメタルどころか、メタルですらないと言えるほどの変化で、どちらかと言えばクラシカルな音楽性に変わっている。ディスクユニオンでもゴシックメタルに分類されるようになっていた。1曲目こそまだ解りやすく、前向きな音になっているが、2曲目以降はさらに難解で陰鬱な悲壮感が増していく。ただ僕のこのアルバム全体を支配する雰囲気がとても好きだ。

今にして思うと、自分がこれほどOmnioというアルバム、特に299796km/sが好きなのは、約15分もの大作を飽きさせず聴かせるよく練られた展開、3本のギターと弦楽四重奏と男女混声が融合された美しさと広がりある響きが作り出すハーモニーなんだろう。恐らくアレンジには相当手間を掛けたであろう。
僕がメタルなどを聴くようになる以前の小学生の頃は、日本国歌である「君が代」や僕の学校で卒業式での定番合唱曲だった「大地讃頌」など、荘厳な響きの曲が好きだった。今にして思えば、そういう傾向が僕の根底にはあったのかもしれない。

これを書くに当たり、Omnioに関する情報を調べると、海外のサイトでノルウェー語のメンバーのインタビューを発見した。
リンク先
時期は分からないが、再結成メンバーだけでなく、当時のボーカルJan Kennethやギタリスト/プロデューサーのBjorn Harstadのコメントもあった。流石にノルウェー語は分からないので自動翻訳で正確ではないが(そもそも僕の英訳も怪しいが)、オリジナルメンバーであるChristian Botteriが基本的に曲を考えているようだが、そこに1stではプロデューサー、本作ではプロデューサー兼正式ギタリストとして参加したBjorn Harstadが曲によってはかなりの手を加えたり、3本のギターのバランスをアレンジするのに苦労したようだ。

ここからは僕の想像になってしまうが、歌にはヴォーカル達の意見がかなり入っているだろうし、弦楽パートについてもカルテットの意見がかなり反映されているだろう。もちろんドラム、ベースも同様に。作曲はバンド名義になっているし、バンド全体で曲を作り上げるスタイルなんだろう。誰が曲作りの核となっているのか気になっていたが、このアルバムは関わった全員で作り上げた、この時にしか成し得なかった作品なんだと思う。
このアルバムのような作品はないのか、この頃から探し続けていたが、Heart of the woodsのブックレット内のコメントや、メンバーのコメント等を見て、このアルバムOmnioはある種唯一無二の存在で、もっとこのアルバムを楽しむことを大切にしようと思うに至った。

では、ブックレットの和訳をどうぞ。

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Jan Kenneth Transeth (Ovl. Svithjod)  : Vocals
Synne "Soprana" Larsen : Vocals
Anders Kobro : Drums
Christopher "C:M." Botteri : Bass
Christian "X" Botteri : Guitars
Bjorn "Berserk" Harstad : Guitars
Oddvar A:M (R.I.P 2013) : Guitars

その名がアンダーグラウンドシーンに広く知られるようになり、本当のIn the Woods...の素顔が明らかになると、純粋なブラックメタルを求める人々に衝撃を与えた。既に述べたように、このバンドに制限はなく「Omnio」はこの事を最も強く示した最初のアルバムだ。デビューアルバムの持つ初期の要素、ブラックメタル/ムーディ/ブログレッシブを掛け合わせたものに、Omnioは大々的な、よりサイケデリックでプログレッシブに、より多くの人をバンドとその音楽の虜にさせてしまうサウンドへと変わった。Omnioはファンにとっての最高傑作であり、ボテリ兄弟は「これは俺達の最強のアルバム!最高傑作だ!」と自らにとっても大切なものであることに同意した。

アルバムが好評を得ていくことへの予感があったかどうかについては、「No!」という声が部屋に響いた。
「いや、むしろその反対だ」とアンダースは言い、当初アルバムの評価が良くなかったという事実を付け加えた。
「…しかしこの事は、実際のところ皆は違ったものを期待していて、その方向性が理解できなかったのだろうと思う」
クリストファー:「このOmnioは大きなリスクで、デビューアルバムからの変化は劇的なもので、我々はほとんど違うバンドと言える音だった」

「スタジオの中であっても、俺達はこのアルバムの偉大さを感じていたが、奇妙なことに、このアルバムを買う人などいないだろうとも思っていた。しかし、この事で我々が悩むようなことは全く無かった。基本的に商業的な考えや、期待されることや、太陽の輝かない場所の事(スラングで"ケツの穴"の意味らしい)など考えたりしない」
アンダースは太陽の表現に満足した様子で付け加えた
「他の誰かが言うことは気にしない、バンドとメンバーがすること、自らが満足することが最優先なんだ」
十分な予算が有ったので、地元のプロデューサーHansとJailhouse studio(ジェイルハウススタジオ)は新しいレコーディング機材を手に入れ、クリスチャンサンドで24トラック録音が可能になった。スタースタジオから故郷のジェイルハウススタジオに帰って来た。スタジオと新しい録音機材の試運転として、結果的に7インチシングル「Mouring The Death Of Aase/White Rabbit」まで、ジェイルハウスで行うことを決めた。Hansはエンジニアの役割に就き、基本を作り上げることやドラムにとって大きな責任があるプロデューサーをBjorn Harstadが務めることになった。

Bjornは正式なギタリストとなっていった。クリスチャン曰く、正確には「Omnio」の制作以前から既にギタリストとして関わっていた。
「彼は俺の代役やライブギタリストとして参加していて、次第に彼の演奏やスタジオでの力として関わりが増えていった。彼が正式なメンバーになるのは自然な流れだった」

そして、Synneがやって来て、ソプラノスタイルの歌をもたらした。
クリストファー:「俺たちは以前Synneがいたバンドのメンバーとしての彼女のライブを見たんだ、Aases Dod (Mouring The Death Of Aases)のパフォーマンスを聴いたんだよ、俺たちもリリースした曲さ」
Omnioの初期のジャケットのこと?多くの人が知ってはいると思うけど、それにまつわる話はどうだろう?
レコード版 Omnio

「"I am your flesh"はレコード版に使われていたアートワークのタイトルだったんだ」とアンダースは言う「それはJan Kennethがフィンランドのアーティストから手にいれたものだ」
ボテリ兄弟とビョーン(Bjorn)は強力な陰鬱さを感じ、クリスチャンは更に強力な狂気(原文では"slayer" 正確な意味は分からない)を感じた。「暗く、陰鬱」
クリストファーは、とある選択肢について話し合うバンド会議について語った。CD用にフィンランドからの狂気のアートワークを用いるのか、Oddvarが撮影した写真を用いるのか。Oddvarの写真は普通のガラスのコップ使ったトリック撮影だった。CD用の写真が大好きなクリストファーが明かすところ、"I am your flesh"の写真は元々はブックレット用に考えられていたが、双方の案を活かすために、2つの選択肢を選らんだ。
クリスチャン:「OmnioはOddvarの写真抜きには同じようには決してならなかったし、個人的にはCDのこの写真がより魅力的に感じる」

ダブルビニール版のレコードの4番目の盤面には絵が描かれている/あるいは刻まれていて、この独特の面は再生ができない。思い起こすと、Omnioにフルトラック収録する別のプランがあったが、"Kairos"はもっと長いバージョンから編集されている。では何故空いたトラックを使って、元の形の"Kairos"を収録しなかったのだろうか?
アンダース:「Omnioにこれ以上の物は必要がなかった」
クリストファーはこの決定でJan KennethとOddvarに怒ったが、今ではこの判断を支持している。
「私が感じるのは、もし削った部分を使っていたなら、Omnioはその目的を失って、全体のバランスを壊していただろう。今に思えばその判断は正しかった」
アルバムの収録時間についてクリストファーは「HEart Of The Ages」に使うつもりだった、デモテープ「Isle Of Men」に収録された"Tell De Dode"について語った。
「理由?アルバムの収録時間によるものさ。実際のところレコーディングはStar Studioで行っている」

Omnioの作詞は、1つを除き全てJan Kennethの手によるものだ。その1つとはボテリ兄弟が最高の曲と考える「I am your flesh」
クリスチャンがこの詞を書いた。
「Jan Kennethはこの曲について疑問があって、彼がこの作詞をしていない事に言及した際に、彼が全く関わっていない事に気付いていた人もいたが、今日皆が知ることとなる。I am your fleshは非常に個人的な内容なんだ」とクリスチャンは言う。「自分と兄弟について扱った内容なんだ」
クリストファーは初めてその詞を読んだときに引き裂かれるような気持ちになったことを認めている。そしてJan KennethはOmnioの全ての作詞の着想を得ることに幾分かの問題を抱えていて、クリスチャンに助けを求めた。高い志を持つ者がバンドにはいないという事は、間違いであるとクリスチャンは証明して見せた。

常に息づくOmnioはその全てを与え続け、強力な売上げとなり、今日に至るまでOmnioは増刷を続け、新たなファンを楽しませている。HEart Of The Agesの時の様に、クリストファーはお気に入りの1曲として「299 796km/s」を挙げ、コブロとクリスチャンは再び、より多くを受け入れるように、アルバムそのものを選んだ。

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